記憶の欠片
2日目、
今日もまた昨日と同じように
俺はプリントを片付けて
奈々ちゃんは出席簿みたいなのを
見ている。
「そういえば友也くん、
昨日引っ越してきたって
言ってたよね?」
「うん」
「どうして越してきたの?」
「親が転勤になったからさ。
今は1人暮らししてる」
「兄妹は?」
「今、両親が海外にいて
そっちに14コ下の妹がいるんだ」
ほんとは日本で暮らしてもいいんだけど
まだ3歳だし、親と離れて暮らすのは
良くないかなって。
「…私も、妹いたんだよ?」
「…えっ?」
噂好きな翔からでさえ
聞いたことなかったから
思わず聞き返してしまった。
「…私にも、10コ離れた妹がいたの。
…まぁもう…ずっと会えてないし、
会えるかもわからないけど」
「…どういうこと?」
ずっと笑顔で喋ってた奈々ちゃんが
突然悲しそうなに俯く。
「私の両親は私が10歳の時に
離婚したの。
私は父に引き取られたけど、
すぐにまた再婚した。
そして1度その再婚相手に
会ってみることになったの」
「再婚相手には赤ちゃんがいたの。
その子は父との子だってすぐにわかった
…でも、凄く怖かった」
「…どうして?」
「…赤ちゃんの掌に痣があったの。
半年くらい一緒に暮らしたけど、
やっぱり赤ちゃんに手をあげてて
ついには私にも手を出そうとしたの。
だから父は離婚してくれたの」
「じゃあなんで…」
「…なんで赤ちゃんも一緒に連れて
行ってあげなかったか?
それは私もお願いしたよ。
だけど父は仕事が何より大事で
赤ちゃんの事が…」
奈々ちゃんの瞳に溜まっていた
涙が零れ落ちる。
奈々ちゃんの涙で、
この後言われるであろう言葉は
なんとなくわかった。
「…邪魔だった?」
俺の口から放った言葉に
奈々ちゃんは俯いたまま
目を閉じて小さく頷く。
「…今、あの赤ちゃんがどこに
居るかはわからない。
だけど半年間に何度か私に向けられた
あの笑顔をいつまでも忘れない。
何があってもね」
その後チャイムが鳴り、
2日目の手伝いは終わった。