記憶の欠片
〈敦side〉

友也が智の元へ走り去った後、

翔はずっと落ち込んでいた。

「…大丈夫?」

「…あぁ」

ずっと座りこんで
ぼやけたような返事ばっかり。

「…私も、最初はそうだった。
友也と別れて何もする気が
起きなくて、会って目を
合わせることも苦しくて。
好きなのに別れなきゃ
いけないって…辛いよね」

「…でもね、沢山の良い思い出
…くれたでしょ?友也も、智も」

「…良い…思い出?」

「…手を繋いだ事、キスした事
デートした事、ケンカした事。
隣に…いてくれたこと。
沢山あるでしょ?」

「…でも俺の隣にはもう…
日向はいない」

「…私がいる」

「…えっ?」

「…いつでも、私がいるよ。
私たち…似た者同士じゃない?」

「…傷の舐め合いは…嫌だよ」

「…傷の舐め合いなんか
じゃないよ。
…お互いがお互いに
好きな人がいる、ただそれだけ」

なんて笑って言ったら
翔はやっと、笑顔になってくれた。


『傷の舐め合い』


周りから見たら
そうかもしれない。

だけど私は翔の気持ちが
よくわかる。

好きな人とわかれなきゃいけない。

それはとても
悲しくて辛くて泣きたくなること。

だけど好きな人の幸せを奪うより、
よっぽどいいでしょ?

私は、翔がかっこいいと思うよ


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