記憶の欠片
あれから1週間。
奈々ちゃんが言うには
日向は今も目を覚まさないらしく
酸素マスクで息をし
点滴で栄養を受けてるらしい。
あっちゃんもずっと
学校に来てない。
俺だってあんなこと言われて
病院に顔を出せないでいる。
そんななか、奈々ちゃんから
携帯に一本の連絡が入った。
「…友也君。元気?」
「…元気だよ。日向はどう?」
「…まだ眠ってる。
その事で今日はお願いが
あるんだけど….いいかな?」
「…なに?」
「…1週間前からあっちゃん
ずっと学校来てないでしょ?
それは智にずっとついてるから
なんだけど、そろそろ…
あっちゃんも限界だと思うんだ。
でも私、この後会議があって。
だから…智の事、ちょっとだけ
みててほしいの」
あっちゃん…寝てないんだ。
それ程日向が大事なんだろうな。
「…いいよ」
「…よかった!
さっきあっちゃんのこと家まで
送ってきたの今から大丈夫!」
「…大丈夫だけど、
もし俺が無理って言ったら
どうしてたんだよ?」
もし無理って言ったら
奈々ちゃんは会議があるし
あっちゃんは家に帰ったから
見とく人がいない。
そうなったら元も子もない話じゃ
ないのか?
「…私は友也君が『いいよ』って
言ってくれるって信じてたから。
それにその時はその時よ。
さっ、行こ?」
「….うん」
奈々ちゃんはそう言って
車の鍵を指でクルクル回しながら、
背中を向けて歩いていくのを
俺は黙ってついていった。