記憶の欠片
奈々ちゃんに病院まで
送ってもらってベッドの
横の椅子に座った。
奈々ちゃんは2,3時間で
戻るらしい。
「…日向」
ベッドで眠ってる日向の顔は
苦しそうで辛そう。
そんな顔。
日向…。
日向はどうしてそんな辛そうな顔をあっちゃんや奈々ちゃんに
見せるんだよ。
奈々ちゃんもあっちゃんも翔も
みんな心配してるのに。
それなのにどうして目覚めて
くれないんだよ。
早く…目覚めてくれよ。
「…智美ちゃん」
日向の手を握りながら
そっと囁いて頬に触れ
酸素マスクをちょっと下に下げて
日向の唇にキスをした。
あの時と同じ。
『ずっと守る』
そう約束してキスした時と同じ。
そうすれば起きてくれる
ような気がしたんだ。
でも実際は起きる気配なんか
全くしなくて。
スヤスヤ眠ってるだけ。
…お願いだよ。
お願いだから….起きて。
起きないとわかっていても、
そう願ってしまう。
でもふいに日向の顔を見ると
一粒の涙を流している。
「…日向?」
「…あれ?…ここ」
「今あっちゃん呼ぶからな!」
「….友くん?」
『友くん』。
そう言われた瞬間、
あっちゃんを呼ぼうと
携帯を取ろうとした手が止まる。
それは昔、あいつが
呼んでた呼び方。
友くん友くんって呼んでたっけ。
「…俺のこと…わかるの?」
「…智、全部思い出した。
友くんのことも、
あっちゃんのことも」
「…本当に⁉︎」
「…うん、忘れててごめんね?」
「…智、もう離さない。
ずっとずっと大好きだよ」
「…智も」
気づいたら2人とも涙で
ぐしゃぐしゃになりながら
抱き合っていた。