泡沫幻夢-ウタカタ-
第一章

言い伝え



 この地には、昔から謎の言い伝えがあった。


 赤キ月ノ夜 ソノ月ヲ見シ者エ

 紅キ瞳ノ 狐ノ子現ル


 なんてことない、ただの御伽噺。


 俺がそれを初めて耳にしたのは、小学4年の時。


 同級生の中には、その狐の子が訪れた者には災いが降りかかるなんて言うヤツもいた。


 けど、その頃にはサンタの存在すら信じていなかった俺。


 まぁ、信じる筈もなく。


 そして、信じないまま今に至る。


 大学も3年目で、来年に向けて就職がどうこうと騒がれる日々。


 あの日、バイト帰りでほとほと疲れきっていた俺は、言い伝えの存在すら思い出さないまま、空を見上げたんだ。


 それが、俺と椿との出会いになる。 


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