彼と私は手を繋ぐ
隆弥の部屋から見知らぬ女が出てきたので、その子は大きな目をさらに丸くした。
それから、オロオロしながら目を泳がせた。
「あの、あたし……その、違うんです、借りてたものを返しに来ただけで…」
「あ~、多分誤解してると思うんですけど、私ただのアルバイトなんで」
「……え?」
初対面の人からよく、威圧感がある、と言われる。
つり目がちな私の目は、真顔の時でもよく不機嫌に見られる。
なるべく笑顔になるように気をつけながら、私は言った。
「ハウスキーパーみたいなものなんです。隆弥は留守なんですけど、上がって待ちますか?」
「いえ、あの……これを、届けに来ただけなので……」
家主が居ないのに家に上がる事に抵抗があるのだろうか。
遠慮がちに、女の子は袋を差し出した。
受け取ってドット柄のビニール袋を覗くと、中には折り畳み傘が入っていた。
確かに、これは見覚えがある。
間違いなく隆弥のものだ。
「この前、雨の日に…タカくんが、貸してくれて」
「そうなんですね」
間違いない。彼女と話ながら、私は自分の記憶に確信を持つ。
……私は彼女と何度か、話した事があった。
「……あの、私の事、わかりません?」
「……え……?」
私の顔を見つめて、女の子は首を傾げた。
無理もないか、……制服だと、また雰囲気も変わるよね。
「駅前のケーキ屋でバイトしてるんです、私。……けっこう来てくださいますよね?」
「え、あ、……あっ……!」
ようやく気付いたようで、また目を真ん丸にする。
なんだか小動物っぽくて、可愛らしい。
「良かったら、中で待ちません?……隆弥が今日帰ってくるかは、分からないんですけど」
私がもう一度そう言うと、彼女は少し目を泳がせてから、小さく頷いた。
……自分でも、どうしてこんなに、半ば強引に、彼女を部屋に入れたのかよく分からない。
だけど、今まで会った隆弥のガールフレンド達とは違う何かを、彼女に感じたのは確かだった。
……汚れていないような、そんな感じ。