彼と私は手を繋ぐ
彼女の名前は、町田 桃さん、というらしかった。
丁寧に名乗ってから、町田さんはペコリ、と頭を下げた。
「そんな、畏まらなくても。……佐伯 翠です。多分同い年ですよね」
「そう、みたいですね……。お店で見た時、もっと年上の方かと思ってました……」
「ふふ、私も、町田さんって高校生かと思ってた」
「えっ、こ……高校生……」
「いや、良い意味で、ですよ。すごい可愛らしいから」
分かりやすくしょんぼりした町田さんに、私は慌ててフォローを入れた。
「あの、……『みーちゃん』って、翠さんの事……ですよね」
恐る恐る、という感じで、町田さんが聞いた。
まさか町田さんの口からその名前で呼ばれるとは思わなくて、私はびっくりしてしまう。
「……彼女にも、私の話してるんだ、アイツ……」
私の呟きに、町田さんは酷く慌てた。
「かっ、彼女だなんて……!違います、違います!……むしろ翠さんが、その……本命さん、なんだと思ってたんですけど……」
……本命??
町田さんの言葉に、私は眉を寄せた。
……とんでもない勘違いである。
「まさか。私と隆弥は、本当にそーゆー関係じゃないんで。
幼なじみ……って言うと、周りは色々詮索するんだけどね。本当に、姉弟みたいな感じ」
「そう、なんですか……」
よくわからない、といった感じで、町田さんは首を傾げ た。
コテン、と首を傾げるのは、どうやら彼女の癖らしかった。
可愛らしい仕草で、何だか微笑ましい。
いつもパティスリー・ツジでケーキを見つめながら、同じように首を傾げている彼女を思い出した。
真剣に時間をかけてケーキを選ぶ彼女は、とても印象的だったので、私も顔を覚えていたのだ。