彼と私は手を繋ぐ


一通り泣いた桃ちゃんは、スッキリとした表情で、何だか少し元気になったようだった。

「すいません、ハンカチまで……。洗って返しますね」

「別にいいのに」

律儀な子だな、と思う。
隆弥の周りに居る子にしては、珍しいタイプだし。

……こんなに真っ直ぐな子なら、隆弥も変えてくれるんじゃないかなぁ、なんて。

桃ちゃんと私はアドレスを交換しあって、一緒に隆弥のマンションを後にした。

戸締まりをする私を見ながら、
「……合い鍵、いいなぁ」

ポツリと、桃ちゃんは呟いた。

「おばさんから渡されてるだけだからね。……本当に、そーゆーんじゃないから」

「はい、今日話してみて、……ちょっと分かりました」

桃ちゃんはそう言って笑った。

「……何かさぁ、桃ちゃんなら、隆弥をどうにか出来そうな気がするよ。……っていうか、私個人的に応援したいな」

「……ありがとうございます」

「何か出来る事があれば、言ってね。……話くらいなら、いつでも聞くし」

桃ちゃんと、肩を並べて歩く。
小柄な桃ちゃんは、本当に可愛らしいと思う。

……私が男なら、こんな彼女が欲しいなぁ、と心底思う。

こんな可愛い子が居るのにさ、今頃何やってるんだか。

電話をかける事も出来たけれど、それは桃ちゃんが嫌がった。
まぁ、十中八九他の女の子と居ると思うけれど、それを敢えて確認するのは確かに気が引ける。

「今日、翠さんと会えて良かったです。なんだか、タカくんに少し近づけた気がする」

駅まで一緒に歩いて、別れ際に桃ちゃんはそう言った。
手を振って別れてから、私は何とも言えない気持ちになった。

……隆弥なんかを好きにならなければ、きっと桃ちゃんは幸せになれるのにな。

だけど恋なんて、理性でコントロール出来るものではないのだろう。

あの可愛らしい女の子が、どうか幸せになれますように。

私が願ったところで、何も変えることは出来ないだろうけれど、
そう願わずにはいられなかった。



< 14 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop