彼と私は手を繋ぐ


「ごめんね、俺、馬鹿だから……」

洗濯物を無言で畳む私の隣に来て、隆弥はちょこんと正座した。

今口を開くと、隆弥に何を言ってしまうか分からないから、私は唇に力を入れる事に集中する。
本当は今すぐ、隆弥を怒鳴りつけてやりたかった。

「なにか、みーちゃんを傷つける事、したんでしょ?……自分じゃ、わかんないんだ、……ごめん、ごめんね」


……隆弥は、犬だ。
ダンボールに入れて捨てられた、可哀想な犬みたい。
びしょぬれで、ほっといたら死んでしまうような気がする。

「みーちゃん、嫌いにならないで」

こんな最低な隆弥を、だけどやっぱり私は、嫌いにはなれない。
隆弥の全てを、一個ずつ嫌いになっていくのに、『隆弥』という存在を否定する気にはなれないのだ。

「みーちゃんが居なかったら、俺、死んじゃうよ」

隆弥は今にも泣きそうだった。
だけど、私の方が泣きたい気分だった。

今すぐ隆弥を殴って、泣き叫びたかった。

「……嫌いじゃないよ」

ぶっきらぼうにそう告げると、隆弥は目を潤ませた。

「……ほんと?……嬉しい」

ぎゅう、っと隆弥に抱きしめられた。
隆弥に抱きつかれるのは慣れっこだけれど、こんなに強く抱きしめられるのは珍しい。

「……痛いってば」

「ん、ごめん。……みーちゃん、好き」

謝りながらも、隆弥は力を少し緩めただけで、離してくれなかった。

「大好き、みーちゃん」


……隆弥の『大好き』にも、私はもう慣れきっていた。
隆弥の言う『大好き』は、薄っぺらくて、世界で一番意味がないように思えた。

隆弥はきっと、何も好きになれないまま死ぬのだ。
可哀想な隆弥。

可哀想すぎて、私はきっと隆弥を見捨てられないのだ。
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