彼と私は手を繋ぐ
スピードコースで回した洗濯物を干し終わった頃に、男は浴室から出てきた。
部屋の中に、ふんわりとシャンプーの匂いが混ざる。
「わー、やっぱすごいね。みーちゃんが来るとすぐにキレイになる」
部屋を見回して、男は嬉しそうに言った。
私はそれも無視して、炊飯器で炊いたばかりのご飯をよそう。
おばさんから預かってきた煮物も温め直して、
タッパーのままテーブルに乗せた。
「洗い物してから帰るから、さっさと食べてよ」
「みーちゃんは?一緒に食べようよ」
「いらない。お腹、すいてないから」
私がそう言うと、男は分かりやすく眉を下げた。
しょんぼりした表情にも、慣れてしまって可哀想とすら思えなくなっていた。
「……ちゃんと、学校行ってんの?」
「ん、まぁ…たまに」
「おばさん、心配してたよ。…子供じゃないんだからさ、ちゃんとしなよ」
「ん……、ごめん、ね?」
もぐもぐ口を動かしながら、首をコテン、と傾げてみせる。
本当に反省してる訳ではない。
…こうやって、すぐに謝るのは、隆弥の悪い癖だ。
私は、もうそれを追及するのも面倒になっていて、隆弥がマトモになる事なんてとっくの昔に諦めてしまっている。
…だけど知らんぷりするのも後味が悪いから、何となくこうやってズルズルと、面倒を見ているのだ。
隆弥(たかや)は私の、いわゆる幼なじみというやつだ。
隆弥の父親と私の父親は学生時代からの旧友で、私達は小さい頃からよく遊んでいた。
『甘えん坊のタカくんと、しっかり者のみーちゃん』という形は、もう物心ついた頃から完成していて、私は何かと隆弥の世話をさせられていた。
……だけど、私も隆弥ももう大学生で、いい加減に自立しなきゃいけない年齢なのだ。
私は最近、もう本当にこの部屋に来るのが憂鬱で仕方ない。
隆弥の、いまだに子供みたいなフワフワした発言にも、嫌気がさしている。
何より、隆弥の女癖の悪さには、本当に嫌悪すら抱いていた。