彼と私は手を繋ぐ
顔に書いてある
ケーキ屋のバイトと、隆弥の世話で、私の休日は実は少ない。
だからたまの休日には、思いっきりリフレッシュするようにしている。
そろそろ夏物の洋服も気になっていたから、私は一日ショッピングに費やすつもりでいた。
ショッピングビルにあるセレクトショップは、学生には少し高めだけれど、可愛い服が多くてお気に入りのお店だ。
Tシャツを広げながら、自分の手持ちアイテムと頭の中でコーディネートをしてみる。
……使いこなせない服は買わない主義なのだ。
「あれ、翠ちゃん?」
聞き慣れた声に呼ばれて、私の心臓はドックンと跳ねた。
振り向くと、……辻さんが居た。
「やっぱり~、何、買い物?」
辻さんは何故かやたらとキマったスーツ姿で、声をかけられなかったら気付かなかったと思う。
高そうなスーツだ。
ネクタイまでしっかりしていて、なんだか別人みたいだった。
「こんにちは。……なんか今日、雰囲気が……」
「あ~、これね。お見合いしてきたから」
ははは、と辻さんは笑った。
「そ、うなんですね。スーツだと、何か大人みたい」
「いや、だいぶ大人だからね。むしろオッサン?」
……大丈夫、かな。
私今、ちゃんと笑えてる?
辻さんの口からサラッと出た『お見合い』の言葉に、私は思いっきり動揺していた。
だけど何とか平静を保って、笑顔を作る。
「珍しいですね、お見合い。……いつも、断ってるじゃないですか」
「まぁね、……宮田さん、あの果物屋の。あの人がしつこくてさ~。仕事仲間だし、仕方なくね」
言いながら、辻さんはネクタイを緩めた。
……こうして見ると、辻さんはやっぱり大人だ。
自分がひどく子供っぽいような気がして、なんだか悲しくなる。
「せっかくの定休日なのに、も~面倒くさいったらないよ。久々に爆睡する予定だったのにさ」
「最近定休日も予約入ってましたからね」
パティスリー・ツジは第二・第四木曜日が定休日だ。
ただし、バースデーケーキなどは予約すれば定休日でも作っている。
ここの所、辻さんは何週間もまともに休んでいなかった。