彼と私は手を繋ぐ
「翠ちゃん一人なの?」
「はい。……一人で買い物するの、好きなんで」
「俺も買い物は一人派。……ね、メシ食いにいかない?」
「………え?」
「オジサンが奢ってあげよう!」
「…っ、へ、変な言い方しないで下さい!」
まさか、こんな事ってあるだろうか。
夢?……じゃないよね?
心臓がバクバクして、多分顔は真っ赤になっているだろう。
「お腹すいてないなら、無理にとは言わないけど」
「い、行きます…!」
「うし。それ、買ってくる?」
私はTシャツを握りしめたままだった事に今更気づいた。
手の汗でTシャツは何だかシワがついていて、これを買わないのはマナー的に駄目だな、と私は思う。
「はい、……買ってきます」
「ん。じゃ、店の外で待ってるね」
辻さんはにっこり笑って、爽やかに歩いて行った。
……なんだあれ。
もしかして、今日の辻さんって何かカッコ良い……?
元々整った顔立ちの辻さんだけれど、お見合い用にキッチリ髪もセットしてるし、普段よりイケメン具合が三割増しだ。
……私、辻さんと歩いて大丈夫なんだろうか。
お店のミラーに映る自分を、改めて確認する。
別に変なわけじゃないけど、……でも、こんな事なら、もっと気合い入れてくれば良かった……。
よりによって、あんなにキマってる辻さんと。
恋人どころか、『お兄ちゃんと妹』みたいになる気がする……。
嬉しいような、恥ずかしいような、悲しいような、複雑な気分だ。
だけどやっぱり嬉しくて、頬がゆるむのを必死で我慢しながら、レジに並んだ。