彼と私は手を繋ぐ



「おじちゃん、俺いつものトンコツねー!」

「………」

高そうなスーツの、爽やかな辻さんに連れて来られたのは、……まさかのラーメン屋さんだった。

路地裏のような場所にあるそこは、ハッキリ言ってちょっと(いや、かなり)小汚い。

「イチオシはトンコツラーメンなんだけど。翠ちゃんはどーする?」

はい、と辻さんにラミネート加工されたメニューを渡された。
手書きのメニュー表は、ちょっと黄ばんでいる。

「はぁ、……じゃあ、私も同じので」

「おじちゃん、トンコツもう一つねー!」


店主の老人は無愛想で、返事もしなかった。
代わりに、ちょっとむさ苦しい男の人が返事した。

狭い店内は、もう二時でピークではないはずだけれど、満席だ。

「……常連なんですか?」

「うん、結構長い付き合い。ここのラーメン本当に美味いよ。……まー、女の子連れてくる場所じゃなかったか」

ごめんごめん、と辻さんは笑った。

「いや、なんか意外だとは思ったんですけど……、でも、ラーメンは好きです」

「そっか、良かった」

ここに来るまで、ドキドキして緊張していたけれど、……逆にこのムードの無さに救われたかも。
変にオシャレなお店に連れて行かれたら、多分いつも通りの態度では居れなかっただろう。

「お待たせしましたー」

ドンッ、と目の前にどんぶりが置かれた。
……あ、美味しそう。

「博多風っていうの?やっぱりこの細い麺じゃなきゃ駄目だよねー、トンコツは」

言いながら、辻さんは割り箸を割った。

「全く同意です」

頷きながら、私も割り箸を手に取った。

ふぅふぅしてから、麺を口に入れる。
かための麺も、まさにドンピシャである。

「おいしー!」

「だろーっ?さっすが翠ちゃん、分かってるね」

……なんだこれ。
緊張してたのが馬鹿らしくなるほど、色気も何もない。

……だけど、楽しい。

「ヤバい、替え玉出来そう……」

「いや、当然でしょ」


………結局私は、辻さんの前だというのに替え玉までして、トンコツラーメンを堪能してしまった。

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