彼と私は手を繋ぐ


「ホテルのランチでさぁ、美味しかったんだけど、緊張しながら食べてたら全然食べた気がしなくてね」

「ああ……、何となくわかります」

「でしょ?もうね、フレンチ食べながらラーメン食いてーってずっと考えてた」

「あはは、何ですかそれ」

パティスリー・ツジの外でこんな風に話すのは、初めてだった。
辻さんはお見合いが終わった安心感からか、やたらと饒舌だ。

「どうだったんですか?お見合い」

「もちろん、丁重にお断りしてきたよー。最初からそのつもりだったしね。ま、これも大人の付き合いのうちだから」

「はぁ、そんなもんですか……」

辻さんの言葉に、安心してしまう自分が恥ずかしい。
……想うだけでいいって、決めたのに。
辻さんが誰と付き合ったって、関係ないのに。

「……辻さんって、理想が高いんですか?」

何となく気になって聞いてみる。

「理想?……さぁ、どうかなぁ。好きな子が出来れば普通に付き合いたいとは思うけどねぇ。……こう見えて、結婚願望もあるし」

「えー、じゃあお見合い、断ったら勿体ないじゃないですか」

「誰でもいいわけじゃないんだよ。やっぱさ、恋愛結婚したいじゃん?可愛い嫁さんと、子供とかさー。憧れはあるよね」

「子供、ですかぁ……」


お父さんになった辻さんを、想像してみる。
……なんて違和感がないんだろう、と思って、私は笑ってしまう。

「なんか、想像つくかも。親バカになりそうですよね」

「俺も自分でそんな気がするー」


こんな人と家庭を築けたら、きっと幸せになれるだろうなぁ、と思う。
いつの日か辻さんのお嫁さんになれる人が、羨ましい。


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