彼と私は手を繋ぐ
隆弥が怒る姿を、私はほとんど見たことがない。思い出そうとしても、全然頭に浮かんでこない。
隆弥はいつもヘラヘラ笑うか、しょんぼりとしていた。時折、寂しそうな顔をする事もあった。
だけど今日の隆弥は、妙に感情的だった。
「何で、その人の事考えてるの?」
隆弥はもう一度そう言った。
答えるまで話を止める気は無さそうだ。
私はもう一度、大きくため息をついた。
「………好きだから。その人の事が」
隆弥にこんな事言っても、どうせわからない。
だって隆弥は恋を知らない。
苦しくなったりドキドキしたり、自分ではコントロールできないようなこの気持ちを、……きっと隆弥は知らないだろうから。
「………どうして」
隆弥は、呆然とした。
………どうして、って何が。
辻さんを好きになった理由まで、説明しなきゃいけないのか?
そんなの、上手く説明できるわけがなかった。
「………どうしてっ!?」
隆弥がそんなに大きな声を出せるとは思わなくて、私はポカンとする。
そんな私の隙をついて、隆弥は思いっきり私の肩を掴んだ。
そのまますごい勢いで、壁に肩を押しつけられた。
「いっ、たぁ……」
ドン、と体に衝撃が走って、私は反射的に目を閉じた。
それから、隆弥を睨む。
「痛いんだけど」
壁に追いやられて、身動きが取れない。
隆弥の顔が近くにあって、このまま殴られるのかと少し怖かったけれど、それ以上に腹が立っていた。
……何でこんな、乱暴にされなきゃならないわけ。
イライラして、隆弥を睨みつける。
力では適わないから、それ位しか抵抗する術がなかった。