彼と私は手を繋ぐ
一体どれ位の間、そうしていただろう。
私の涙が止まった頃に、隆弥の手はようやく緩められた。
「……さいあくだ」
隆弥はそう言って、今度はふんわりと私を抱きしめる。いつものように。
「こんなはずじゃなかった」
「………うん」
「最悪、……どうしよ、みーちゃん」
なんだそれ。
隆弥らしくて、私は呆れてしまう。
どうしたらいいのか、聞きたいのは私の方だ。
「……無理だよ」
ポツリと、私が言った。
自分でも驚く位に、頼りない声が出た。
「……無理、ぜんぶ無理」
隆弥の隣にずっと居ることも。
隆弥だけを見ることも。
辻さんへの気持ちを消すことも。
自分ではどうする事もできない。
「……無理なんだってば」
「わかってるよ。……そんなのわかってるもん」
隆弥は拗ねたように言う。
わかってるなら、何でそんなワガママ言うの。
「………ねぇ」
「ねぇってば。玉ねぎ切ってる途中なんだけど」
隆弥の体をグイグイ押すと、ようやく離れてくれた。
体のあちこちが痛い。
隆弥を睨む。何てことしてくれるんだ、この馬鹿。
「色々痛いんだけど」
「ごめんなさい」
「謝ったら済むと思うなよ」
「責任、とる!」
「うるさい」
だまれ馬鹿、と私は隆弥を思いっきり蹴った。
「いっ、たぁぁ~!」
隆弥はその場にうずくまる。
ふんっ、と鼻を鳴らして、私は台所へ戻った。
切りかけの玉ねぎは、少しパサパサになっていた。