彼と私は手を繋ぐ
「恐いこと言わないでよ」
「言わせないでよ。……だから、ずっと俺と居たらいいんだよ」
「無理、って言ってるじゃん」
「俺だって無理だよ。みーちゃんが居なかったら死んじゃうもん」
俺にとってこれは死活問題なの、と隆弥が言った。
「俺の、お嫁さんになればいい。ていうか、する」
「嫌よ」
一度バレたら、後は開き直りか。
隆弥は恥ずかしげもなく、馬鹿な事を平気で言う。
「あんたみたいな見境ない奴、無理。すぐ浮気しそうだし」
「しないよ!」
隆弥は大きな声で言って、私を見る。
「みーちゃんが居てくれるなら、他の子なんて全部切るよ?」
「………」
桃ちゃんの顔が浮かんで、私はまた泣きそうになる。隆弥を睨んで、どうにか耐えた。
「全部、みーちゃんの代わりだもん。俺が好きなのはみーちゃんだけだよ。ずっと、最初っから」
全部、私のせいだとでも言うの。
桃ちゃん達を苦しめているのも、全部。
「だったら、何で……、何で、今更そんなこと」
最初っから、って、いつから?
何でその時に言わないの。
もっと早く言ってくれてたら、何か違っていたかもしれないのに。
「だって、怖かったんだもん。みーちゃんに言ったら、全部壊れちゃう気がして」
もうとっくに、壊れてるくせに。
「だけどみーちゃんが俺から離れようとするなら、もう我慢してたって意味ないし」
何もかも手遅れだった。
だって隆弥はもう汚れきってるし、私は隆弥に幻滅しすぎていた。
辻さんの、日だまりみたいな笑顔を思い出す。
やっぱり好きで、この気持ちを大切にしたかった。
もしかしたら、明日フラれるかもしれないけど。
そうだとしても、辻さんの代わりに隆弥を好きになるなんて無理だ。
私には、隆弥を好きになる事は出来ない。
だけど、嫌いにもなれない。
「……離れないよ。ずっと世話してあげる」
「ほんと?」
「掃除もするし、たまにご飯も作ってあげる。……でも、それ以上は無理」
「…………」
「それ以上は、無理。好きにはなれない」
「………どうしても?」
隆弥の目が悲しそうに揺れたけど、私は頷いた。
「ん、わかった。でも、ずっと、俺のお世話してね」
約束、と隆弥は小指を出した。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーますっ」
隆弥なら本当にやりねないな、と思った。
どこか諦めた気持ちで、私は隆弥の小指に自分の小指を絡ませた。