彼と私は手を繋ぐ
夏風邪は馬鹿がひく


冷房が程よく効いた部屋の中。
夏場にしては厚手の布団をかぶっている。

………いま、何時だろ。
少し起きあがればベッドの近くにある時計を確認できるのだけれど、今はそのちょっとの動きすらしんどい。

暑いんだけど背中がゾクゾクとする。
これはまだ熱が上がるな、と他人ごとのように思った。



コンコン、
部屋をノックする音。

「ねーちゃん、生きてるー?」

弟、皐月(さつき)の声だ。

「めし、食えそう?」

「………むり」

「起きてるー?」

「だから、むりって」

「開けるよー」

返事はしているけれど、ドア越しでは聞こえなかったようだ。
皐月はドアを開けて、ひょこっと顔を出した。

「なんだ、起きてるなら返事しろよな」

………してるっつーの。

「むり、ごはん。いらない」

「薬は?食べないで飲んでいいの?」

「……だめかも」

「ゼリーとかは?」

ゼリーかぁ、……何とか食べれる、かな。
こくん、と頷く。
じゃあゼリー持ってくるわ、と皐月は下に降りて行った。

……こんな時、実家暮らしで良かったなぁ、とか思う。
一人暮らしで病気になったら、大変そう。

お母さんはパートに出ていたけれど、弟の皐月は夏休みで家に居た。
皐月は高校生だ。

久しぶりの高熱でほとんど動けない私の世話をしてくれている。
なんだかんだで、可愛い奴である。

しばらくして戻ってきた皐月から、ウィダーインゼリーを受け取る。
ついでに水と薬も持ってきてくれた。

「………ありがと」

「おう、ちゃんと寝ろよー」

そう言って、皐月は部屋から出て行った。

どうにかゼリーを流し込んで、薬を飲んだ。
それからまた布団に潜り込む。

瞼はすぐに重たくなった。
うつらうつらしていると、枕元でスマホが鳴った。



< 37 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop