彼と私は手を繋ぐ

隆弥は掃除も洗濯も自炊もほとんどしない。
脱いだら脱ぎっぱなし、出したら出しっぱなし。
だから綺麗にしたところで、また数日たてば元通りだ。
本人に片付ける意志がないのだから、綺麗な状態が維持できる筈もない。

隆弥の母親曰く、それは実家に居た頃からそうで、隆弥の部屋の掃除もすべて母親の仕事らしかった。

…甘やかしすぎなのだと思う。

隆弥は、容姿に非常に恵まれていた。
パッチリと大きな瞳は、小さい頃から可愛らしかった。
肌も白く陶器のようだったので、小さい頃は女の子によく間違えられていた。
髪の毛は元々明るい色で、フワフワした猫っ毛なのだが、本人はそれをあまり気に入っていないようだった。


隆弥はいつもニコニコしていて、人当たりも良かったから、女の子から人気があるのも納得出来る。
だから隆弥のコンプレックスの猫っ毛すら、女の子達はこぞって「かわいい」と褒めた。


ただし、隆弥の最大の欠点はもちろん猫っ毛なんかではない。

隆弥は、本当の意味で人を好きになることが出来ないのだ。

来るもの拒まず、去るもの追わずが隆弥の本質で、相手を一人に決める事が出来ないようだった。
だから隆弥のガールフレンド達は、しばしば喧嘩をしたり、隆弥本人も修羅場に巻き込まれたり(といっても、元凶なのだから当然だけれど)、彼の女関係はハッキリ言って泥沼だった。

私がおばさんから頼まれて掃除をしに来るようになってから、何度か隆弥と女の子が『寝ている』場面に遭遇してしまった事もある。

初め、私はひどく驚いてしまい、……私の中で、そーゆー行為は夜にするもので、真っ昼間っからする行為ではないと思っていたので……
固まってしまった私を見て、それでも隆弥はヘラヘラと笑ったのだ。

「おはよう、みーちゃん」

隆弥の上に裸で乗っかっていた女の子も驚いたようで、甲高い声で悲鳴を上げた。

私はその声でハッとして、逃げるようにその部屋を後にした。

……その瞬間から、隆弥は私にとって『なんだか得体の知れない』存在になった。

元々あまり喜怒哀楽のない奴ではあったが、羞恥だとか、本来人間が持つべき感情が、隆弥には欠けていると思った。



隆弥のガールフレンド達を、私はひどく可哀想に思う。
どんなに想ったところで、その想いはきっと隆弥には届いていないのだろう。

ヘラヘラ笑って好きだと言っても、それは上辺だけの話だ。

隆弥の笑顔の下は真っ暗なブラックホールみたいなもので、女の子達の気持ちも言葉も全て、その中に吸い込まれてしまう。

吸い込まれて、消えるだけ。

隆弥からは何も返ってこないし、何も残らないのだ。

ゾッとする。
隆弥の、冷たさに。

だけど私は隆弥も、可哀想なのだと思う。
彼はきっとこのまま、誰を愛することもなく一人で死んでいくのだろう。

……可哀想な人達だと思う。
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