彼と私は手を繋ぐ
脱いだ服を持って部屋から出た。
足下がちょっとフラフラして、恐い。
慎重にゆっくりと階段を降りる。
うちは二階建てで、私の部屋は二階にある。
「わ、みーちゃん大丈夫!?」
私の姿を見つけた隆弥が、慌てて駆け寄ってくる。
「何かフラフラだし。俺が置いてくるよ」
みーちゃんは座ってなさい、と隆弥に持っていた服を奪われた。
下着も入ってるのに、とかちょっと思ったけれど。隆弥だし、まぁいいか、と思い直して、私はリビングのソファーに座る。
レザーのソファーがひんやりと火照った肌に気持ちいい。そのままソファーに体を寝かせた。
………二階まで戻るのが面倒くさいな。
思った以上に体がだるくて、動くのが億劫だ。
「みーちゃん、部屋で寝ないと」
戻ってきた隆弥に言われる。
わかってるってば。
……だけど動く気力がわかなくて、ぼんやりと隆弥を見る。
「もう、みーちゃん。そんな顔したらだめじゃん」
そんな顔って、どんな顔だ。
思ったけど、言葉が出ない。
話すことすらダルい。
「何か食べる?」
聞かれて、私はふるふる首を振る。
「じゃあ、部屋にもどろ?」
ほら、と隆弥が両手を広げた。
おいで、みーちゃん。
頑張って体を起こそうとしたら、そのまま隆弥が私の背中に腕を回した。
ぐらり、体が揺れる。
「よ、いしょっと」
足が宙に浮いて、体が不安定になる。
私は反射的に、隆弥の首に手を回した。
………所謂、お姫様だっこの状態だ。
「ちょ、無理でしょこれ………」
「や、意外とへーき」
そう言って、隆弥はそのまま歩く。
少し開いていたリビングのドアを足でどけて、そのまま階段へ。
「重いでしょ、馬鹿」
「みーちゃんは細いから大丈夫」
………あれ、そういえば。
家の中が静かな事に、今更気付く。
「皐月は?」
「部活行くって言ってたよ」
………そうか。
いや、でも隆弥と二人っきりってどうなの。
改めて、自分の置かれた状況を把握する。
そんな事をもやもや考えるうちに、いつの間にか部屋にたどり着いた。
ベッドの上に私をゆっくり座らせる。
「ふー。………すげぇ、運べた」
手がプルプルして本当はちょっとヤバかった、と隆弥が笑った。
………悪かったわね、重くて。
なんだか少し恥ずかしい。
「………ありがと」
小さな声で言うと、隆弥は一瞬固まった。
それから、へにゃっと顔をゆるませて笑う。
「うん」
嬉しそうに、笑う。
私が隆弥にお礼を言うなんて、レアだ。
「………みーちゃん、すきだよ」
幸せそうな顔だな、と隆弥を見て思った。
今日の隆弥はなんだか穏やかで、優しい。
自分が弱っているから、そう感じるのだろうか。
「やっぱり、すき」
何かを確かめるみたいに、隆弥が言った。
私はなにも答えない。
何も言えないままで、また布団にもぐりこむ。
ウトウトしていたら、頭に優しく隆弥の手が置かれた。
瞼の上まで撫でられると、すぅっと勝手に目が閉じていく。
「………そんな無防備なんて、ずるいよ」
隆弥が何か言っている。
だけどもう、目を開けるのは難しい。
「………みーちゃんのいじわる」
ふにゅ、と唇に何か柔らかいものが触れた。
ほんの一瞬。
何だろう、と考えている間に、もう一度ふにゅ、とくっついた。
今度は、長い間。
…………あ、キス。
気付いて、パチリと目を開けた。
隆弥の顔。………見たことがない位に、真っ赤だった。
「…………なに、すんの」
「ごめん。……つい」
「ばか」
熱のせいか、それ以上何か言う気にもならなかった。
隆弥でも赤面することがあるんだな。
どうでもいい所に妙に感心した。
考えるのがだんだん面倒になって、私はそのまま眠りについた。
「………で、また平気で寝るし。
みーちゃんにとって、俺ってなんなの」
どんだけ意識されてないの、とため息。
隆弥の呟きは、もう私の耳には届かなかった。