彼と私は手を繋ぐ
次の日。
パティスリー・ツジは定休日だ。
『CLOSE』の札がかけられた扉を、押し開ける。
カランカラン、と音が鳴る。
「お疲れさまでーす……」
表の鍵が開いているから、辻さんが来ているんだろう。
だけどお店の方には姿が見当たらない。
店内にはふんわりと甘い香りが漂っている。
………もしかして何か、作ってる?
私はそのまま、厨房の方へと歩いていく。
………あ、居た。
やっぱり厨房に、辻さんが居た。
いつもの白い制服と違って、Tシャツに黒いエプロン、というラフな格好だ。
「……辻さん!」
呼んだら、辻さんが振り向いた。
「おう。お疲れ、翠ちゃん」
「お疲れさまです」
「もうちょっとで出来るからさ、休憩室で待っててよ」
「…………?はい?」
確かに辻さんはケーキを作っているようで、………どうやらそのために私を呼んだらしい。
あ、もしかして新作の試食?
パティスリー・ツジには店長の辻さん以外にも、職人さんが二人居る。
普段はその三人で新作を考案したりしているが、たまにバイトの私達にも感想を求められたりするのだ。
……もしかしたら、今から他のバイトの人達も来るのかもしれない。それで、新作の試食を皆でする……とか?
なんだ、………良かったぁ。
ホッとしながら、私は休憩室の扉を開けた。