彼と私は手を繋ぐ


「………うそ」

「嘘じゃないって!何でそんな嘘つくのよ、俺が」


だって、辻さんだもん。
大人で、カッコ良くて、お見合いだっていつも断ってる。
お客さんから手紙とか渡されてるのも、何度見てる。

………私に好かれて、辻さんが喜ぶはず、ないもん。


「あの、さ。あれからずっと考えてたんだけどね」

ポリポリ、ほっぺたをかきながら。
辻さんが言った。

「……………付き合おっか」





…………つきあう?
誰が、誰と?


頭の中で、辻さんが言った言葉を繰り返してみるけれど、全然理解が出来ない。
本当に真っ白で、私はポカーンとしながら辻さんを見た。


「ぶはっ、何その顔」

辻さんが、私の顔を見て吹き出した。

「…………翠ちゃんが嫌なら、もちろん止めるけど。もし良かったら、付き合わない?」


「な、んで…………?」


「何でって、……………好きだから?」


…………うそ。うそだ。


「うそ」

「だーかーら、嘘じゃないって!」


ぽたり、何かがぎゅっと握りしめた手に落ちた。
何だろう、と思っていたら、
辻さんが、私の目元に優しく手を添えた。


「もう、何で泣くの」

仕方ないなぁ、とでも言うような。
優しい優しい顔で、辻さんが笑う。


「………だって辻さん、色んな人から言い寄られてるもん」

「えー?そう?」

「っ、も、モテモテだもん」

「モテモテじゃないって」

「う、うそつき……、っ、ひっく」

「モテモテだとしてもさ、好きって言われてその気になったのは翠ちゃんだけだよ」

「……っ、ひっ、……」


ポロポロ、ポロポロ。
ワケがわからない位に、涙が出てきた。
鞄から慌ててハンカチを出して、目元を押さえる。

「…………好きだよ、翠ちゃん」


こんなの、夢だ。絶対。


「ね、翠ちゃんは?」


目の前で微笑む辻さんは、とんでもなく甘くて、優しい顔をしている。

こんなの、私の都合の良い夢を見ているだけだ。

「…………俺のこと、どう思ってるの」


………夢なら、どうか。


「……………すき、です」


どうか、醒めないで。
ずっとこのまま。甘い夢の中に居たい。


「つ、辻さんが、好きです………」






< 45 / 48 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop