彼と私は手を繋ぐ
「あーあ、コーヒー、冷めちゃったね」
いれ直してくるね、と辻さんが席を立った。
ありがとうございます、と言ってから、私はフォークを持つ。
まず、チョコミントムース。
口に入れると、ふんわりと溶ける。
爽やかで、優しい甘さ。
食べながら、ようやく少し冷静になる。
…………それから。
隆弥のこと、どうしよう……。
冷静になって、やっと問題点に気づいた。
幼なじみとはいえ、男の家に上がって世話をしているだなんて、辻さんは良く思わないだろう。
というか、私が辻さんの立場なら絶対嫌だ。
………離れる時が、来たのかもしれない。
ずっと一緒だと約束した日の事を思い出すと、胸がチクリと痛む。
だけどきっと、いつかはこうなっていたんだと思う。
隆弥とずっと一緒に居てあげることは、私には出来ないんだから。
隆弥に、言おう。
隆弥のおばさんにも言って、バイトは辞めよう。
元々、パティスリー・ツジのバイト代だけでも十分なのだ。
隆弥の世話をしていたのは、やっぱり情があるからなんだと思う。………だけど。
ガチャ、と扉を開けて、辻さんが戻ってきた。
同時に、コーヒーの良い香りがする。
「お待たせ。あ、どう?新作」
ケーキを食べる私を見て、辻さんか言う。
「美味しいです!甘さ控えめで食べやすいし」
「翠ちゃん甘すぎるのダメだもんね」
辻さんが笑う。
「ツジのケーキは全部好きですよ!甘過ぎなくて」
「ははっ、ありがと」
こうやって普通に話していると、さっきまでの事が本当に夢だったような気がしてくる。
でも、……今日から恋人同士、なんだよね?
改めて考えると照れくさくて、どんどん顔が熱くなってくる。
「…………なに急に赤面してんの」
ニヤニヤしながら辻さんが言う。
「し、てないです」
「………もー、ほんっと可愛いな」
はーっ、と大きなため息をついてから、辻さんが頭をガシガシする。
か、可愛いって………。
辻さんの言葉で、私は更に赤くなる。
「何でそんなに可愛いの、いちいち」
「か、かわいくないですっ」
「可愛いんだって。……何そのギャップ」
……ギャップ。
前に唯に言われたことを思い出した。
「仕事中はすごいしっかり者で隙なんてないくせにさー、俺がちょっかいかけたら、すぐ赤くなるし」
「俺だけにそうなのかなー、とか思ったら、めちゃくちゃ優越感感じちゃうよね」