彼と私は手を繋ぐ
「翠って百戦錬磨っぽいのに、ピュアなんだよねー。ギャップに萌えるわ」
「意味わかんないし」
唯とはバイト先で出会って、その後同じ大学だと知った。
まだ一年にも満たない付き合いではあるが、親友とも呼べる仲だと思っている。
「だってさ、クールビューティーじゃん、翠は」
「だから、意味がわかんないから」
「イメージの話よ。美人だし、あんまり表情出さないじゃない。だけどさー、辻さんと話す時だけさぁー、お花が咲いてるんだよね、周りに!」
こう、パァ~っとね!と、唯は大きく両手をヒラヒラさせた。
私はまた眉間にシワを寄せて、唯を睨む。
「止めてよ、からかうの。辻さんに変な事言ったら怒るからね」
「言うわけないじゃん!……まぁ、バレバレだろうけどさぁ~」
バレバレ、という響きに、私はドキッとしてしまう。
本当に辻さんにこの気持ちがバレていたら、私はもうパティスリー・ツジには居れない。
辻さんには絶対に知られてはならない。
……失恋してまでバイトを続けられるほど、私は強くはないのだ。
「もうさぁ、告っちゃえばいいのに」
ハンバーガーをモグモグさせながら、唯が言った。
……バイト帰りに駅前のファーストフード店
に寄るのは、私たちの定番だ。
「無理。絶対無理。……フラれた相手と働くなんて、無理」
「何でフラれる前提なのよ」
「………逆にフラれない可能性を見いだせるアンタがすごいわ」
ズズズッ、とコーラをすする。
もうほとんど薄まって、コーラ風味の水に変わっている。
「イケる気がするんだよねー。なんかさ、翠と辻さんって同じニオイがする」
………なんだ、それ。
全然説得力の無い唯のセリフに、私は呆れてしまう。
唯は、少し適当でノリで生きている感じがする子だ。
だけどそれが、唯の持ち味でもあるのだけれど。