彼と私は手を繋ぐ

「いや、私のこーゆー事に関しての勘はすごいから、当たるから!
翠も辻さんも、すんごい落ち着いてるじゃん。大人カップルってゆーの?お似合いだと思う!」

「……もう、いいから」

私はため息をついた。
……そもそも、三十歳と同じ落ち着きを放つ大学生って何なんだ。老けてるってこと?

「別に私、辻さんと付き合いたいとか、思ってないし。……バイト辞めるまでは、ただ想う位なら許されるかなぁ~って思ってさ」

「欲がないなぁ、翠は!でも私達も二年だしねぇ、バイトばっかりやってらんないもんねぇ~」

はぁー、就活ヤダ~っ!
唯はブツブツ言いながら、ポテトを食べる。


辻さんの事を想うと、切ないようで、優しい気分になれる。
辻さんの大きな手と、意外にも繊細な指先が好きだった。
穏やかで、低い声も。

私の青春の1ページに、この片思いを残す位なら、許されるような気がしていた。

ただ、想うだけでこんなに幸せになれるのだ。
これ以上なんてこれっぽっちも望んでいなかった。
隆弥とガールフレンドみたいに、身体だけの関係なんかよりずっと素敵だと思うのだ。

私の中で、隆弥の部屋とパティスリー・ツジは対照的で、
光と闇、みたいな……正反対の存在なのだった。

真っ白なパティスリー・ツジと、いつも重たく淀んだあの部屋。
辻さんの誠実さと、隆弥の不誠実さ。

だから私が辻さんに惹かれたのも、どこか自然の流れみたいなものがあったように思う。
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