好きじゃない、はず。―ラブレター・マジック―
「瀬戸が上手く動けないならチャンスかな」
「え?」
少し驚いた表情を見せれば、水谷君はいたずらっぽく笑う。
「なんて、ウソウソ。
もう何もしないって言ったしね」
あ……。
もう何もしないから
夏祭りのとき、水谷君が言っていた言葉。
実際、それから水谷君とは特に何もなかった。
「でも、もし瀬戸が……」
水谷君があたしの髪に手を伸ばそうとする。
ふと見れば、さっき手を洗っていたときに濡れたらしい髪から水が滴り落ちていた。
「瀬戸が平野を傷つけるようなことがあれば、俺も黙ってないかもね」
水谷君の指先があたしの濡れた髪に触れようとした……その時。
パシッと何かが水谷君の手を払った。
あたしはそれに驚くも、水谷君はある方向を見て小さく笑っていた。
「そんなこと絶対ないから大丈夫」
水谷君の視線の先に目を向ければ、瀬戸が眉間にシワを寄せながら立っていた。