好きじゃない、はず。―ラブレター・マジック―
あの時。
互いの唇の距離がどんどん狭まっていく中……瀬戸は突然、その動きを止めた。
そしてゆっくり顔を離すと、
『ごめん、ちょっと暴走しすぎた』
そう言って苦笑いした。
ごめんねってもう一度謝ってから瀬戸はまるであやすようにあたしの頭をポン、ポンと数回撫でた。
そして、ゆっくり立ち上がってあたしに手を差し伸べる。
『帰ろっか』
あたしがその手の上に自分の掌を重ねれば、瀬戸は少しだけその手を引いてあたしを立ち上がらせる。
『もういいの?』
『え?』
『夕日』
あたしがそう聞けば、瀬戸はもう一度夕日に目をやってから小さく笑う。
『もう十分見れたから。
俺の夢、叶ったし』
その時の瀬戸の笑顔がちょっとだけ大人びて見えたのは……あたしの気のせいだったのかな。