好きじゃない、はず。―ラブレター・マジック―
ポケットに手を突っ込んで廊下を歩いてくる瀬戸。
どんどん近づくその距離に心臓がバクバクする。
無表情のまま歩く瀬戸。
いつもヘラヘラしているのに……。
あんな無表情見たの……初めてかも。
どんどん距離が縮まり、あたし達のすぐそばまで来る瀬戸。
……だけど。
……瀬戸は向かい合うあたし達をチラッと一瞥しただけで、そのまま歩き去っていく。
だんだんと遠くなっていく瀬戸の背中。
胸がズキンズキンと痛む……。
……なんで。
今までなら水谷君といたら、すぐ邪魔をしに来てたのに。
……そうだ。当たり前なんだ。
だって、瀬戸には彼女がいて……。
……それに、用がないなら話しかけないでって言ったのはあたし。
なのにショックを受ける自分に……少し嫌悪感。
「平野……?」
水谷君が心配そうにあたしの顔を覗き込む。
「……水谷君」
「ん?」
「……よかったら……一緒に回ろっか、文化祭」
水谷君は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔になって頷く。
「もちろん」
半ばヤケクソなことなんて水谷君は気づいてる。
それでも笑顔で頷いてくれる水谷君にあたしは甘えてしまっていた。