好きじゃない、はず。―ラブレター・マジック―


「……だから、あたしは……」

「ストップ。
好きじゃない、とか言わないでよ。
そんなこと言われたら俺傷ついちゃう」


少し冗談めかして瀬戸はそう言う。

だけど、真剣で……ちょっと切なそうな顔。


……あたしは何も言えなくて、そのまま俯く。


「はー。俺って面倒くさい男だなー」

「え?」

「だって、そうでしょ。
フラれるの分かってるから。
だから直接平野の口から聞きたくないんだよね」

「瀬戸……」

「平野のこと困らせてるのは分かってる。
けど、ごめんな。
俺だって……はっきりフラれるのは怖いよ」


あ………。


「ははっ、なんて。
こんなこと言われる方が困るよなー。
ごめん、今のは忘れて」

「瀬戸、」

「ついでにこれも捨てちゃってちょーだい」


そう言いながら瀬戸はあたしに手紙を差し出す。


「す、捨てないよ。
ちゃんと読むよ……」

「え、読むの?
いいよ、俺が読んだから」

「アンタが読んだって意味ないでしょーが」

「大丈夫、大丈夫。
ほら、ちょうどそこ穴開いてるし。
そこから突っ込んじゃいなよ」

「突っ込まないし」

「え、そのための穴じゃないの?」

「違うわ!」


あたしがそう言うと、瀬戸はケラケラとおかしそうに笑った。


「はー、やっぱつぐみちゃんと話してるの面白いなー」


あ……戻った。

つぐみちゃんに戻った。


平野になったりつぐみちゃんになったり……。

……瀬戸の呼び方は安定しない。

< 34 / 253 >

この作品をシェア

pagetop