好きじゃない、はず。―ラブレター・マジック―
その日の放課後。
あたしは手紙に書いてあった通り、教室で水谷君を待っていた。
ホームルームが終わって10分もすればあっという間に人はいなくなってしまった。
窓の外から微かに人の声が聞こえるだけの静かな教室。
そこでぽつんと一人でイスに座っているあたし。
水谷君、か。
去年同じクラスだったっていうだけで、本当にほとんど話したことはない。
でも、真面目でいい人そうだったという記憶はある。
そんな水谷君が……
「ごめん、ちょっと遅くなった!」
ドアが開く音がして、声が聞こえた。
そこにいたのは久しぶりに見た水谷君。
水谷君は教室の中に入ると、迷うことなくまっすぐあたしの座ってる席の前に来た。
そして空いてる机にカバンを置くと、あたしの前に座った。
「久しぶりだね、平野」
「うん、そうだね」
「ごめんね、急に呼び出したりして」
「ううん、平気」
……全然気の利いた返事ができない。
当たり障りのない、つまらない返し。
でも水谷君は気にした様子はなく、よかったと笑みを見せた。