好きじゃない、はず。―ラブレター・マジック―
「あの……さ」
「うん、何?
何言われた?」
ほれほれ、と瀬戸が急かす。
あたしは覚悟を決めて口を開いた。
「瀬戸がちょっと前まで女の子に付きまとわれてたって……」
あたしがそう言った瞬間、瀬戸が固まった。
お姉さんのことを告げた時とはどこか違う驚き方にあたしは戸惑った。
やっぱり聞いちゃいけなかった?
「あの、ごめん、瀬戸……」
「……それ聞いて、平野はどう思った?」
「え?どうって……」
さっきまでとは少し違う声のトーンに驚く。
いつものヘラヘラの瀬戸じゃないなんてことはすぐに分かった。
……何だか安易に答えちゃいけない気がする。
そう思って何と答えようか迷っていると……瀬戸が突然クスリと笑った。
「俺、案外モテるよー。
このままだと誰かに掻っ攫われちゃうよー」
いつものように軽く笑う瀬戸。
え……今のは何だったの?
一瞬でいつもの瀬戸に戻ったことに戸惑う。
「ね、つぐみちゃん。
俺が誰かに取られたら寂しいでしょ?」
「……別に」
「え、ショック。かなりショック。
そこはウソでもうんって言うところでしょー」
やっぱつぐみちゃんは手強いなーなんて言いながら瀬戸は歩き始める。
「ちょっ、瀬戸?」
「ごめんね、つぐみちゃん。
俺、トイレ行くところだったんだわ。
今、ダムが決壊しそうなんだわ。
つぐみちゃんも一緒に来る?」
「行くか!」
あたしがそう言えば、瀬戸はおかしそうにははっ!と笑う。
そしてそのまま歩みを進める。
あぁ……うまくすり抜けられた。
結局詳しいことは聞けなかった。
遠ざかっていく瀬戸の背中を見ながら小さくため息をついた。