君恋ふる
act.1
自分でも分かっていた。
努力なんて言葉、俺には似合わないと。
だから始めから諦めてた。
「なーに見てんの、マサキ?」
「……や。別に」
「嘘だ~! あ、可愛い子がいたんでしょ? どこどこっ?」
「そんなんじゃねぇって。ほら、帰んぞ」
「何よぅ。教えてくれたっていいじゃない」
「うるせぇな、あんましつこいと置いてく!」
「あはは。ごめんごめん、謝るから置いてかないでー」
下校時間。俺は昔からそうしていた通り、幼なじみのカヨと帰る。
ご近所同士だった俺らは、学校でも同じクラスに割り当てられる事が多く、自然と一緒に帰るのが普通になっていた。
とは言うものの、高校に入ってからはお互い下校時間は合わないし、一緒に帰る事も減ってきた。
「あ、そうそう聞いて! 隣のクラスのね…」
隣で楽しげに話し始めたカヨを横目に、俺はさっき見ていた彼女を思い出す。
気づけば最近よく目で追ってる気がする。
少しカールのかかったの髪は触ると気持ち良さそうで、よく友人達とはしゃいでいる。
何が面白いのか全く見当がつかないが、常に満面の笑顔で…。
見ていて飽きないと思う。
「ってちょっと、マサキ聞いてる?」
「……へ? あ、ああ」
「絶対聞いてなかったでしょ。有り得ない」
「んだよ。お前ののろけ話なんか聞いてられっかよ、つまんね」
「はあ?! のろけ話って、どこが!」
「アイツの話だろ? 最近仲良しの」
「それはそうだけど、別にそんな関係じゃないしっ」
「へーへー、さっさとくっついて兄離れしろよー」
「ウザッ。いつからあたしの兄貴になったわけ、アンタ」
本気でウザそうな顔をしているカヨ。
何か面倒臭くなったので、この際コイツは放置。
俺は明後日の方向を見ながら、再び彼女の事を考え始める。
そういえば、最近たまにぼーっとしてる気がする。
何か悩み事でもあるんだろうか。
……まぁ俺が心配したところで、何も変わりゃしねぇけど。
それでも、彼女には笑顔が似合うから、早くその気がかりがなくなるといい。
「ねぇ。ねぇってば。マサキ!!」
「うおぉっ! ビックリさせんなよ!」
「そっちがぼーっとしてるから悪いんでしょ」
「俺のせいか?! ……俺のせいか」
「全くもう。うち、着いたんだけど」
「おおぅ、いつの間に」
気づけば、俺達はカヨの家の前にいた。
ここから2分歩いた先が俺の家だ。
「そのままぼーっとして家通り過ぎないでよ?」
「んな事すっかボケー」
「人が親切に言ってあげれば…。もう知らないっ」
カヨは機嫌を損ねて俺に背を向けた。
それからサクサクと自分ちへ入ろうとして、くるりと振り返る。
「また明日ね」
いつもの笑顔で手を振り、玄関のドアを閉めた。
俺は少しその場に立ち尽くし、再び歩き始める。
――本当に俺は、努力って言葉が似合わない。
*To next*
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