君恋ふる
act.7
俺が出会った中で、至上最強最悪な女。
昔から、今でも、変わらない評価。
そしてお前はそれを良しとする。
「ふー……っ」
ゼミが始まるまであと10分。
暇を持て余して外で一服。
喫煙所は好きじゃない。耳に入れたくない話まで耳に入る。
一服するための一服だ。と、思う。
「うっわ、煙たい! ちょっとロカ! 喫煙所行って!」
「俺がどこで吸おうと勝手だろ。つーか俺が先にいた」
「ここは公共の場所ですー! そして喫煙所が設けられてる意味を察しろ!」
「もーすぐ結婚する奴が他の野郎と二人っきりでいていーんですかー」
「うっ。そ、そこはあれよ、向こうもロカを知らないわけじゃないんだし、浮気っぽい雰囲気ではない…はず…」
同じ学科の同回生であるヤエは、入学当初から周りに一目置かれていた俺をよく構った(ヤエ曰く、目付きが怖いらしい)。
お陰で俺はハブられる事もなく程よい位置にいる。
そこは、まぁ。感謝している。つもりだ。
「そーいや、結婚祝いは何がいい? ヤエには世話んなってるしな。あんま高いのは無理だが、希望があれば言ってみろ」
「………何でもいいの?」
「高くなきゃな」
「じゃあ、一つだけ」
「ん」
「ルイって誰?」
「っ、ゴホッ! ゴホッゴホッ」
予想だにしない言葉に、煙草をふかしていた俺は盛大にむせた。
「な、んで、お前がその名前…?!」
「おや。無意識だったの。たまーに呟いてたよ。寝言とかケータイ見ながらとか」
「っ……」
「ずっと訊いてみたかったんだ。どんな人なのかなーって」
「それ、いつから…」
「割とすぐだったなぁ」
「だからお前……」
言いたかっただけ、って言ったのか。あの時。
俺の心の中に居座ってる奴がいるって知ってたから。
返事はいらないって言ったのか。
「あ、自惚れないでよね。私はもうロカなんか好きじゃないもーん」
「……そうか。そりゃ良かったよ」
お前が言い逃げしなかったら、俺はお前をもっと悲しい思いをさせるとこだったのか。
こんな想い抱えたままの俺じゃダメだもんな。
そうか。知ってたのか。
良かったのか悪かったのかさっぱり分かんねーなぁ。
「ほらほら、結婚祝いくれるんでしょ。さっさと吐きなさい!」
「はぁ…。赤ん坊の頃から知ってる。俺のことが大っ嫌いでよ、つんけんしてて、ほんと可愛げのねぇ奴だった」
「あー、だから忘れられないのねぇ」
「俺が話せるのはここまでだ。ゼミ行くぞ」
「えっうそ、もっと聞かせてよー!」
「あと10年くらい経ったらなー」
「けち!!」
「何とでも言え」
あいつは……ルイは、物心ついた頃から俺を嫌っていた。
それが何故なのか俺は今でも分からない。
ヤエの言うように、この目付きのせいだろうか。
とにもかくにも、俺はもうあいつと会う事はないだろう。
あいつがそう、言ったのだから。
――私、県外の大学行くから。多分もう帰らない。お互い清々するね?
――さようなら。お兄さん。
*To next*