ただ、そばにいて
「来月またこっちに帰ることになったから、朝海(アサミ)のペンションに泊まらせて」
安いラブホテルの、固いシーツの上で抱き合った後。
倦怠感が残る身体を横たえる私の隣で、気怠げにマルボロに火を点けながら短髪の男が言った。
「え、何でうちに?」
「俺の友達も一緒に海に来たいんだって。お前んち行ったことないから興味あるし」
正確には“うち”ではなく、私の両親が海に程近い場所で経営しているペンションだ。
全部で五部屋ほどしかない少人数制のこじんまりとしたものだけれど、夏は海水浴客が利用して毎日満室になる。
いつもはOLをしている私も、夏場の休日は料理や掃除を手伝ったりしている。
私は煙草の煙から逃げるように鼻の上まで布団を引っ張って答えた。
「ふーん、わかった。来月ってことはお盆くらい?」
「あぁ。また詳しく決まったら連絡するけど」
お盆っていうと、あの子が帰ってくるのと被っちゃうな……まぁ、だからと言って特に問題はないと思うけれど。
この男──翔吾(ショウゴ)は保険会社の営業マンで、現在県外へ単身赴任中。
たまにふらりとこちらへ戻ってきては私に連絡を寄越し、都合が合えば会って抱き合う。
私達はそんなドライな関係を約半年ほど続けている。