ただ、そばにいて
■テイクオフ
八月に入ると、気温とともに私の気分は上昇する。
県外の大学へ通っている夏(ナツ)が、趣味のサーフィンをするためにこの地元へ帰ってくるからだ。
夏に生まれたから“夏”
朝の海が綺麗だから“朝海”
そんな安直な名前の付け方は、さすが姉妹だと思う。
私の母親の妹の子供、つまり私のいとこである五歳下のナツは、幼い頃から一緒に遊んで一緒に育った。
『アサ姉は泣き虫だから、俺がついててやらなきゃダメなんだ!』
……なんて、生意気なんだか頼もしいんだかわからないことを言って。
悲しいことや辛いことがあって泣いている時はそばにいて、泣き止んだ後は手を引っ張って立たせてくれるような、そんな男の子。
いつしか少しくらいのことでは泣かなくなったけれど、それでもナツは私のそばから離れなくて、それが嬉しかった。
でも、大学生にもなればさすがに私の周りをウロチョロするはずもなく、彼は遠くの大学を選んだ。
その時に初めて気付いたのだ。
離れてしまうことの辛さに
私がナツを、いとこなんかじゃなく、ずっと一人の男として見ていたのだということに。