ただ、そばにいて
ナツが帰ってくるという金曜の夕方、仕事が終わりお盆休みに突入した私はペンションのフロントで部屋の予約状況を確認していた。
翔吾からも連絡があり、日曜に一泊することになっている。
バーベキューはその翌日の月曜に海岸で行う予定で、結局私も参加することにしたけれど……案の定気が乗らない。
やっぱり断ればよかったかな、なんて少し後悔し始めていた時。
「アサ姉!」
カラン、と軽やかなドアベルの音がしたと思うと、外の眩しい光とともに懐かしい声が飛び込んできた。
ふわりと揺れるココアブラウンの髪、大きな二重の瞳と愛嬌のあるきゅっと口角が上がった口。
可愛いけれど前よりもまた男らしくなったナツが、大人びた笑顔で私に近付く。
──あぁ、やっぱり好き。
「ナツ……! 久しぶり」
「久しぶり。元気だった?」
「うん、私は相変わらず。ていうか、今日帰ってきたばっかりじゃないの?」
「そうだよ。早くアサ姉に会いたかったから来たんだ」
──ドキン、といちいち反応してしまう心臓が憎い。
ナツが私をいとこ以上に思って言っているはずないのに。
彼は私の両親とも少し話をした後、小さなラウンジのテーブルを拭く私のところへやってきて世間話を始める。
大学はどうだとか、友達とこんなとこへ行ったとか。
たわいない会話は昔から呆れるくらいしてきたのに、ナツとだったらそのすべてが宝物みたいに思える。