ただ、そばにいて
「明日はいい波が来るかも」



不意に、テレビのニュースを眺めながらナツが言った。

小学五年生くらいからサーフィンを始めた彼は、天気図を見るだけで波の状態を予測出来るようになったらしい。

そして彼が波のことを言うのは、イコール“アサ姉も来てよ”という意味だと、私は捉えている。

二人だけの、暗黙の了解だ。



「じゃあ、朝食出し終わったら海行こ」

「たまには水着着てきてくれたら嬉しいんだけど」

「何言ってんのよ」



鼻で笑いながら、ふと翔吾に言われた『お前の身体って綺麗』というフレーズが蘇る。

あの人にはもうすべてを見せてしまっているけれど、ナツには水着姿すら見せるのは恥ずかしい。

昔は一緒に海で遊んでいたくせにね。



「私の水着姿なんか見せれるほどのもんじゃないわよ、色気ないし」



嘲笑しながら言い、ふきんを手にキッチンへ戻ろうとすると、腕組みをして壁に寄り掛かっていたナツがこんな言葉を投げ掛ける。



「色気があるかどうかを決めるのは男でしょ。その権利、俺にはないわけ?」



──ドキリ、激しく胸を鳴らされてしまった。

なんだかナツじゃない、知らない男の人みたい……。



「俺、もう“オトコノコ”じゃないからね?」



耳元でそんな言葉を残し、私の横を通り過ぎてラウンジを出ていくナツを、急激に沸き上がる熱を持て余したまま見つめていた。

どうして、急にそんなこと言うの──…


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