ゆり
ゆりか
今日は、雨だ
雨の日に傘をさすと
ぽつぽつと耳が刺激され、
頭がぼんやりとしてくる
この感覚が、
ゆりかは堪らなく
好きなのだった。
いそいそと朝の支度をし、玄関へ向かう。
「ゆりか!!」
後ろからの声で
ゆりかは振り返った。
「お母さんが送ってくわ」
「歩いて行きたいの。…電車を使うわ。駅まで。駅まで歩いてくの。すぐそこでしょ?」
「言う事を聞いてはくれないのね…」
返事をせずに、ゆりかは母親に背中を向けた。
買ったばかりの傘を広げ、雨の中に足を踏み出した。