ゆり
「さゆり!」
びくりと体を震わせる
さゆりをよそに、
声の主は、さゆりの元へ猛ダッシュしてくる。
「あっ…早瀬!」
逃げたい
逃げたい
さゆりの足は、
早瀬と逆側に向く。
3・2・1
逃げきれいっ
さゆりは
足に力を込めた
「逃げようとしてんの?」
瞬間、早瀬の手が
さゆりの腕をつかんだ。
「逃げようとしてんの?ねぇ逃げるの?」
「ヒィィィッ!めめめ…滅相もござらんよっ♪ふんふーん♪」
「は…?バカにしてるわけ?」
「怒ってる?」
さゆりは、早瀬の顔を
じぃぃっと見て言った。
「うっ…あ、あったりめぇだろボケ!!」
そっぽ向く早瀬に、
おろおろするさゆり。
「早瀬〜?
ねぇ〜ごめんね?
……。
ごめんってば!!」
「イテッ!てめぇ何逆ギレしてんだよ!!」
さゆりが、早瀬の足のスネを思い切り爪先で小突いたのだ。
「あんたが、いつまでもネチネチネチネチ許してくんないからでしょー!?」
「だいたい、お前が寝坊なんかするから、俺まで遅刻だ!毎回毎回おまえのせいで俺まで遅刻の常習犯にされてんだ!」
「「…………。」」
二人の間に沈黙が走る。
「「遅刻!」」
二人は同時に走り出し、傘もささずに駅を出て行った。