結香莉
お化粧品と同じような感覚で買ったハンドパフューム。お風呂上がりに塗ってみた。花のような香り。濃艶な蝶が蜜を吸いに私の手に止まりそう。
その手で、結衣をパジャマに着替えさせていると、くりくりした瞳がキラリと輝いた。
「ママ、いい匂いがする!」
さすが、女の子。
既に女性という神秘の感性が蕾となり備わっている。
「ママの手、じゃがいもみたい?」
「うーん、ちょっとそうかな。でも今日はお花みたい」
にっこり微笑む結衣が、愛らしくてたまらない。
この子のママなんだから『結衣ちゃんのママ』でいい。
私、幸せなんだ。
尚宏さんは……、全く気づいていない様子。
「ママ、明日も弁当頼むよ」
テレビを見ながら呟くようにぽつりと言葉を発する。
それでも満足感があり、胸が高揚して煌めく。ハンドパフュームを塗り続ける事で少しずつだけど、自分の手を好きになっていたから。
ある日の夜、公園の陽溜まりで尚宏さんと手をつないでいる夢を見た。そのまま芝生の上に寝転んで雲ひとつない奇跡的に青く澄んだ空を見ている。
微睡んでしまうほど気持ちいい。
体を重ねるそれとは違う気持ち良さ。夢の中の感覚だと思っていたけど、違うみたい。
本当につないでいる。
その手は結衣の小さくて可愛い手ではなく、筋張っていて丈夫な大きな手。
目を開けなくても尚宏さんの手だとわかる。温かい……。
まだ恋人同士だった頃の事。
クリスマスの表参道。流星のようなイルミネーションが続く歩道で二人の手がどちらからともなく自然につながった。
「手、冷たいな」
「ごめんね。寒くなっちゃうでしょ」
私が手を離そうとすると、尚宏さんの両手が私の両手を包んだ。
「俺の手、あったかいから」
その時と同じ体温が今、ここにある。