大人のEach Love
君は、俺の言葉を聞いた後も
何も咎める事をしなかった。
急いで帰る事しか頭になく、
手ぶらで帰宅した事すらも。
重くなる気持ちを胸に抱きながら背広を脱ぐと
それをいつもの様に受け取ろうとする、君。
「いや、今日は自分でやるからいいよ。
…花梨は?寝てる…よな。」
一度、寝室のある方に目を向けてから
視線を君に戻した。
俺の背広に伸ばした手を引っ込めて
一瞬、悲しげな表情をした後直ぐに
いつもの優しい笑顔で微笑んで見せ
『…うん。花梨は8時には寝たの。
よく寝る子だから。ふふっ。』
と、俺の問いに答え…言葉を続ける。
「先にお風呂に入ってきて?
その間に、お料理温めておくから。」
と、俺の背中を押し、自分はラップのかけられた料理を手にしてキッチンに向かっていった。
その手には、数本の赤い筋があった…