大人のEach Love
呼吸を乱しながら我が家の戸を前にすると
寒さで悴んでいるからなのか、それとも
不安からくるものなのか、微かに指先が
…震えていた。
手にしていた鍵を鍵穴に入れようとしても
中々上手くいかない。
落ち着けよ、…俺っ。
瞼を閉じて息を吐き出しながら、
そう自分に言い聞かせ
ゆっくりと鍵穴に差し込んだ。
-- カチャッ…
漸く、解錠が出来た事に胸を撫で下ろして
我が家の戸を開くと、廊下だけではなく
その先に見えるリビングの明かりも
灯されてはいなくて…
さっき感じた不安が再び押し寄せてきて
靴を脱ぎ散らかし、廊下を走る。
明かりを灯す事もせずに。
リビングに続く戸を、勢いよく開けてみても
…薄暗い世界が広がっているだけ。
結婚してからの今まで、当たり前の様に
光の溢れるこの部屋に足を踏み入れていた。
君の、笑顔での出迎えや
『お帰りなさい。お疲れ様。』
の言葉すらも。
その【当たり前】な事に
こんなにも…
癒されていたんだと、気付かされた。