大人のEach Love
『あのさ…』
と話し出した和久井さんの言葉に重ねながら
『あのっ…!!』
と、私が遮った。
「あの、私、彼が好きなんです。和久井さんが噂話でどこまで知っているかは知らないですけど、バカみたいに思われているかもしれないですけど、私は本当に彼だけしか見えてな…。」
それに続く言葉の
『見えていないから、無理です。』
を、私は言い切れなかった。
和久井さんの唇が、続きを言わせてくれなかったからだ…。
柔らかく温かいそれで唇を塞がれていた私の頬に、一筋の涙が流れた。
彼だけを好きでいる私が、こうして違う相手にキスをされたから…?
彼を想う私に対して、和久井さんから嫌悪する気持ちを感じさせられたから…?
…違う。
私は、ただ、『女』とのして求められた事に対して僅かに悦びを感じ、それを自身が嫌悪したからだ。
待っても、耐えても、取り戻せなかった愛情と、
想っても、想っても、受け入れられなかった気持ち。
涙なんかいくら流したっていい。
彼を手に入れられるのならば耐えてみせる。
そう思いながら彼を想う歪みの隙間に、和久井さんから求められる気持ちが、私を埋めていくかのように。