大人のEach Love
「私、和久井さんの気持ちは嬉しいです。
でも、その気持ちには応えられません。」
視線を反らすこと無くハッキリと言い切った。
それなのにも係わらず、和久井さんは『参ったな…』と言いたげな表情を浮かべた後、指で顎を掻きながらはにかんで見せた。
とても落ち込んでいる風には見えない。
まるで私の返事を想定していたかの様で。
『あー、…うん。』
と呟いた和久井さんは、そのまま言葉を続ける。
「キミがそう言うだろうとは思っていたよ。
最初から、僕は長期戦覚悟の上だからね。」
「あ、あのっ!だから私は彼が好きだっ…」
「って言うのも分かっているよ。」
私の言葉に言葉を重ねた和久井さんは、私が拭いそびれて顎に流れていた涙を指で擦り、その指を自分の唇へと運んだ。
「キミがアイツを想うように、僕がキミを想うのも同じだよね?
キミが僕の気持ちを拒否するのは仕方ない。
でも、否定されるのは違う。キミだって、同じだろう?キミ自身が否定する事になるだろうから。」
穏和な人だと勝手に思い込んでいた和久井さん。
普段、表向きな会話しかしていなかったから気付かなかった。
こんな流れる目線で、艶やかにしたたかに微笑む和久井さんの表情だったけれど。
私はそれが、…不覚も嫌じゃなかった。