大人のEach Love



「和久井さんの言いたい事は分かりました。
でも、私は返事をしましたから。」


「うん。『今』のキミの答えは聞いたからね。
…でも、僕も引かないよ。
きっと、僕を好きにさせてみせる。」


堂々巡りな会話になるだろうと感じた私は、昂る鼓動を胸にし、大きな溜め息を溢しながら更衣室の戸のノブに手を掛けた。


「…失礼します。」


「僕は、アイツを好きでいるキミを好きになったんじゃない。むしろ逆だよ。
キミの良い所も悪い所を引っ括めて好きになった。
…隙を見せた、キミの弱さも含めて。」



--- どくんっ…



和久井さんの発した言葉に、私の鼓動が速まった。

【隙を見せた】

というのは、さっきの…


自分以外の体温を感じた事に頭を振り、私は勢い良くドアを開け、逃げ出すように走り出した。



違う、違う、違う…。
こんなの、私じゃない。



そう自分に言い聞かせ、女子更衣室にある荷物も置き去りにして、ひたすら社外へと走って行った…。





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