大人のEach Love

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ひたすら走って、ただひたすらに走って…

息が上がり、走れなくなるとハァハァと呼吸を繰り返し調えて、また走り出す。

それを続けて30分は経っただろうか。

それでもまだ、自宅は程遠い…。
今居る場所から自宅まで、どんなに早足で歩いたとしても1時間は掛かるだろう。

バスや電車を乗り継いで30分掛かる位だ。
人間の足ひとつで同じ時間で移動出来る訳じゃない。

…けれど、今来た道程を戻る事は気が引ける。
会社から離れたくて走り出したんだから。

定期入れも財布も、更衣室に置き去りにされたバッグの中。

目前に見えた歩行者信号の点滅。

それを目にした私は、安堵を感じると同時に立ち竦みながら項垂れた。

すると、ぽつりぽつりと小さな雫が降りだして、
肩を震わせながらしゃくりあげた…。


「私がっ、何をしたっていうのよ…っ!」


ぽつりぽつりとアスファルトを湿らせていた音が、サーーっという音に変わる頃、私は空を見上げて恥ずかしげもなく駄々をこねる子供の様に泣き出していた。




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