大人のEach Love


会社の決まりで『制服での通勤不可』とされているのにも係わらず、私はその制服を身に纏っていた。

その決まりの意味は聞かなかったけれど、若輩者の私に先輩が教えてくれた。

社外での『厄介事』を社に持ち込まない為だ。

…と。


勤務外での『会社の顔』として悪さをするなと言う事の様だ。
会社としての人間性と、個々の人間性を分断する事で、その厄介な事を招き入れない様にする為らしい。


じゃあ…

今の私は、その厄介事なのだろうか…?
社の制服を着て、わんわんと泣いている私は。


という思考に至ると、何故か渇いた笑いが零れた。


「…これが、規定でアウトなら、
それはそれでいいかもね。
辞表を出す手間が省けるもの。」


冷たい雨に身を滴らせると、変な考えになるのかもしれない。
感情的になると頭を冷やせとかいうけれど、
これは、頭を冷やした結果って事でいいの?
という、妙な冷静さが顔を出すように。


どんな職場だっていい。
いっそ、転職して全てをクリアーにしてしまうのも有りかもしれない。


と、私はひとつの【逃げ道】を作った…。



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