大人のEach Love


――― 保留から4日目


昨日の予定外の外回り営業、予定外の接待が重なってしまったせいで、俺は愛らしさのアピールアイテムを手にする事が出来なかった。

それだけでも気持ちが落ちていたのに、今朝はそれを更に重くさせるかのような天気。


「・・・だめだ。今日は早めに出社して、早めに帰宅しよう。」


今日は何も出来そうに無い。
保留がいつまで有効なのかは分からないが、今日はひとまず諦めようと気持ちを切り替えた。



いつもより早い時間に自宅を出て、ぼんやりとしながら早足で歩いていたからなのか、予想以上に早く会社に着いてしまった。

エントランスにある時計を見上げれば、
7時30分。


「早すぎだろ・・・。」


はぁ…と溜息を付け加え、受付嬢の居ない受付の前を通り過ぎた。


あれ・・・?
花瓶がない。


辺りを見回してみても彼女の姿は見えない。

彼女が毎日花を生け変えているのを知っていた俺は、部署には向かわず、給湯室に足を進めた。



――― コンコン・・・


「・・・はい?どうぞ?」


給湯室の中から聞こえてきたのは、予想通りに彼女の声。

ゆっくりその戸を開いて室内を見渡すと、そこには水をチョロチョロと流しながら花を生けている彼女の姿が目に入った。

彼女が真剣に花を生けているピンッとした空気。
花が、より美しく映えるように考えているんだろう。


あぁ、やっぱりこの姿、好きだ・・・。


そんな風に見惚れていた俺に、彼女の方が先に口を開いた。



< 66 / 266 >

この作品をシェア

pagetop