大人のEach Love


親友は、嬉しそうに微笑みながら
前方に立っていた人物に腕をそっと添えた後、
二人で足並みを合わせ、
残りの数メートルという距離を歩き出す。


二人がこの室内の前に辿り着くと
曲は少しずつ音を弱めて、そして鳴り止んだ。

それと同時に、形式的な流れ作業を
スタッフはスムーズに進行していった。


お決まりの、片言の日本語を話す外人。
お決まりの、誓いの言葉。

お決まりの…、誓いのキス。



とっとと終わらせてよっ…



新婦である親友と、
新郎である男が唇を重ねる直前。


その男は、私に一瞬だけ目を向けた。


この神聖な場所で、この神聖な儀式の最中だというのに、他の女を見るだなんて非常識だ。


あんたなんか…

別れて正解だ。

あんたなんか…

ただの、元彼に過ぎない。



はずなのに、

視線が交わった瞬間、私の胸は高鳴った。



…ムカつくくらいに。



< 71 / 266 >

この作品をシェア

pagetop