大人のEach Love


-- その週の土曜日。


花子達と街中の喫茶店で待ち合わせていた。

約束の時間は、午後1時。
元々、自分が遅刻するのは許せなかった私は
1時間前に入店し、軽い昼食を済ませた。

窓際に位置するテーブルを選んだのは、
店に入ってくる前の二人を眺めたかったから。

入店時に出迎えたウェイターに
『佐田という人が来たら、
こちらに案内して頂けますか?』
と伝えてある。

勿論、その後直ぐに花子にも『佐田だよ?』
と、メールを送った。

佐田というのは、彼の名字らしい。
昨夜、電話で知った事だった。


「花子、照れてたな…。あはっ…。」


昨日までの嬉しい気持ちが、嘘のようだ。
渇いた笑いしか出ない。

私が最後に付き合った彼と同じ名字
…だった、ってだけなのに。


「佐田なんて、どこにでもいるし。」


そう、たまたま…【同じ名字】なだけ…
万が一、元彼だったとしたって今更よ。
あれから、何年経ってると思ってるの?

私は、…平気。

私が、振ったんだから。



心の中で、そう呟いてはみたけれど、
私が見下ろしていた自身の両手は
微かに震えていた…。





< 76 / 266 >

この作品をシェア

pagetop